エピソード10 恋愛症候群 webパンフレット

【ごあいさつ】

 

お久しぶりです! 実に三年ぶりの公演となりました。

公演はしていませんでしたが、いろいろなことがありました。

勤務地が変わった者、仕事内容が変わった者、大病を経験した者

「生きていればいろいろある」

そんなセリフの意味が、段々わかってきたような気がします。

 

『出来る範囲で楽しいことを』

なんてことを考えている我々にとって

今は、一番キツイ時期なのかもしれません。

何度か企画を立てては、時間だったり、健康問題だったりと

理由をつけて、公演を先延ばしにする日々が続いていました。

事態が動いたのは、去年の秋です。

 

『とりあえずやってみないか?』

 

誰からともなく、そういう話が出始めました。

『多少の無理は承知で、とにかくやってみよう』

そんな思いで、今回の公演は動き出しました。

我々の今を正直に反映した、等身大のお話です。

 

四十にもなって 等身大? とは思います。

この言葉は、十代、二十代の人たちのための言葉であり

未来への希望や、漠然とした不安を、表現した

若々しい人たちの作品にこそ似合うものだと思います。

いわゆる、キラキラした人々が使う言葉です。

 

三十代、四十代の等身大は、キラキラしていません。

一日の中で、希望を感じることなんてそんなにない。

不安は漠然とではなく、数字として明確に目の前にある。

この先に、夢のような未来は待っていないような気がします。

 

それでも、仕事帰りのビールは美味いし、

週末に行く映画や芝居は楽しい。

筋肉痛に悩まされながらの草野球も悪くないし、

ふと、長年一緒にいる相方の素敵な部分を見つけることもある。

夢のような素敵はないけれど、手に取れる幸せが沢山ある。

 

人生いいことばかりじゃない。

けど、明日には見に行く価値がある。

 

そんなことを思いながら、皆様のお越しをお待ちしていました。

最後までごゆっくり、お楽しみください。

 

   【東京OverAgeシアター 座長 辻】

ものがたり その一 2061年の人々

我々のいる2018年から、四十数年後の2061年

世界有数の医薬品メーカー、

株式会社マリアージュの社長は、苦悩の日々を送っていた。

創業から五十年続けてきた、連続経営黒字記録が

ついに途切れたのだ。

2061年の赤字は、実に1600億円。

 

赤字解消のため、コスト削減に乗り出した彼は

自分が把握してない研究プロジェクトを見つける。

 『特別開発室』と名乗るその部門は

収入が全くないにも関わらず、

設備投資に1600億円も使っていた!

 

責任者の真田瑞樹は、事の重大さを全く理解していないようで

けろっとした顔でこういった。

 「1600億円でハドロン衝突型加速器を作りました」

 

瑞樹いわく、宇宙が何で出来ているのかを調べる機械らしいが

クスリ屋にそんなものはいらない。

プロジェクトの中止と瑞樹の首を言い渡した直後。

新たに部屋のドアをノックするものがいた。

 

やってきたのは、社長の兄で自らを教授と名乗る人物。

2048年、癌の治療薬を開発し会社に莫大な利益をもたらし。

2055年に流行した未知のウィルスのワクチンを発見して

ノーベル賞を受賞した男。

 

一研究者にも関わらず、社内で最も力をもつ彼が

瑞樹に特別プロジェクトの指示を出していたらしい。

 

「特別開発室の研究費を増額してほしい」

 

涼しい顔でいう教授に、社長は「無理だ」と答える。

当然だ、利益が出ない研究に資金が提供できるはずがない。

しかし、教授は納得しない。

彼曰く、利益はあるというのだ。

そのわけを、研究主任の瑞樹が語り始める。

「本能寺の変や竜馬暗殺を目撃できるなら、いくら出します?」

 

そう、瑞樹が作っているのは、タイムマシンだったのだ。

教授は危険も顧みず、颯爽と巨大な装置に入っていく。

トピック1 次元転送装置

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瑞樹が開発している次元転送装置は、

映画に出てくるような乗り物ではなく、巨大な装置です。

理屈は不明ですが、物凄い力で時空を捻じ曲げ

目的地までの道を開く物と考えるとわかりやすいでしょう。

お話の中の転送装置は、いつ、どこにでも行けるというわけではなく

2061年からきっかり四十四年後にしか移動できません。

 

2061年1月1日、午前0時に転送装置を起動した場合。

2017年1月1日、午前0時にしか移動できないということです。

 

覚えておくとよりお話が楽しめると思います。

 

ものがたり その二 2017年 喫茶ヤドリギに暮らす人々。

教授が向かった2017年。

都内の小さな製薬会社で一人の男が壁にぶち当たっていた。

彼の名前は佐久間秀雄。

研究所の存続をかけた新薬の開発主任に抜擢されたが

肝心のクスリは、完成の一歩手前で半年以上、足踏み状態だった。

 

しかし彼はあきらめない。

 

週に五日のサービス残業を続けながらつぶやく。

「……このプロジェクトは絶対に失敗できない」

政府肝いりのこの新薬が完成しなければ、研究所は助成金を失う。

そうなれば、小さな研究所は一気に存亡の危機に立たされる。

四十にして失業というのも痛いが、それ以上に、失えないものがある

三十代も終わりに差し掛かったころ合コンで知り合った、

五つ下の妻。美奈だ。

 

二年の交際を経て、去年のクリスマスに結婚した彼女は

大手ブライダルメーカーの営業統括部長という地位を捨て

秀雄の実家の喫茶ヤドリギでウエイトレスをしている。

物覚えが良く、明るく快活な彼女は、

店主である秀雄の母にも常連客にも、すぐに受け入れられた。

 

店に開店以来の好景気をもたらした美奈は、 

さらに大きな幸せを秀雄にもたらす。

美奈は、秀雄の子供を身ごもっていた。

「男の子が生まれたら、大地」

名前ももう決めている。

ちなみに女の子が生まれた時のことは考えていない。

産婦人科医に教えてもらったわけではないが

美奈には分かるのだという。

 

生まれてくる大地のためにも、秀雄はしくじるわけにはいかない。

 

ものがたり その三 大江戸製薬研究所の人々

新薬の開発に苦心する秀雄を支えるのは二人の女性。

一人は秀雄と同じ研究員の、司馬桜博士。

十八歳で米プリンストン大学の博士号を取得した才女だが

何故か男運がなく、夫は転職を繰り返しているダメンズである。

 

彼女が秀雄と研究しているのは、政府肝いりの新薬

LOV48 飲んだ人を有無を言わさず恋愛状態にする、

ある意味恐るべき生物兵器である。

ウィルスによって引き起こされる症状が、

このお話のタイトルにもなっている恋愛症候群というわけだ。

 

依頼したのは少子化担当大臣だが、もちろんこのことは極秘である。

 

秀雄を支えるもう一人の女性は。

大江戸製薬研究所、営業部の織田真紀。

 

遅々として進まない研究に頭を痛めながら

少子化大臣に頭を下げ、陰ながら二人にエールを送っている。

彼女が辛い仕事をなんとか続けられるのは交際している

素敵な男性の存在があるからだ、彼の名は真田正樹。

 

飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続ける、株式会社マリアージュの

初代社長である。

 

だが、真紀の唯一の幸せは、

2017年2月、唐突に失われる事になる。

トピックその2 LOV48

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀雄達が政府の依頼で研究しているLOV48は

飲んだものを即座に恋愛状態にする、ある意味恐ろしい物です。

 

難しい仕組みは割愛しますが、とある病原体を改変し

脳の扁桃体という部分に異常を起こさせ、目の前にいる

異性に熱烈な好意を持たせるウィルスだと思っていただけると

分かりやすいでしょう。

 

お芝居が始まった段階で、ウィルスはおおむね完成しています。

ただこのウィルスは耐久力が異様に低く、

感染者が、風邪薬を飲んだだけで、簡単に死んでしまします。

生命力が高く、感染者に害を及ぼさないウィルス。

秀雄達はそれを目指して、研究を続けているわけです。

はたして、ウィルスは完成するのか? それは見てのお楽しみです。

 

ものがたり その四 真紀と教授の出会い

2017年2月10日。別れは突然やってきた。

時々、部屋に現れるだけで、電話もメールもしてこない

真田との関係に、真紀は正直疲れていた。

 

仕事のついでに家にやってきた真田に、真紀は思い切って質問する。

「ねえ、正樹さん。将来の事考えてる?」

答えは残酷な物だった。

「……俺、結婚はしないぞ」

真田が去った部屋で、大量の薬が入っている瓶を見つめる真紀

これを大量に飲むと、命を落とすこともあるという事を

真紀は知っている。

 

瓶の蓋に手をかけ、開けようと回した時。

台所から物凄い音がした。

真紀が振り向いた先には……未来から来た教授が立っていた。

と、ここまでが大体最初の15分ぐらいで起こることです。

ここからどんな話が展開するのか?

 

LOVは完成するのか? 真田と真紀の復縁は? 美奈の子供は本当に男の子か?

そして、教授が2017年に現れた理由は?

 

すべての謎は、劇中で明かされます。

物語の結末は、あなたの目で、お確かめください。