(ものがたり)

ここではない遠い場所、今ではない遠い昔

大きな川に寄り添うように、小さな川添という国がありました

そこには頭のいい王様と美しい千里という名の姫が住んでおりました

姫は婿をもらってもおかしくない歳でしたが、姫に求婚する他国の王子は一人もいませんでした。

姫は……眼が見えませんでした。どんな美しい景色も宝石も姫にとっては意味のない物なのです。

 

そのうえ、姫には秘密がありました、姫の光を映さない眼には、残酷な未来が見えているのです。

目の前にいる人の死に様、もうすぐ起きる飢饉、……やがてやってくる戦。

姫は自分の薄気味の悪い眼を気に入っているらしくこういうのです。

『山の緑とか空の青とか川の透き通っていることなんて見えなくたって構わない

あたしは、こうやって残酷な未来の景色が見えていればそれでいいの』

そして自分の見た残酷な景色を楽しそうに語るのです。

国の人々は姫の未来を見通す眼のおかげで飢饉をしのいだり、戦に勝ったりしているのですが

姫を愛そうはしません、愛するどころかこう噂するのです。

『姫は妖(あやかし)、化け物の仲間なのではないか』

 

あるとき隣国から、美しくない姫が 王様の後妻として嫁いできます。

この美しくない姫は王様を愛しているから結婚したのではなく、この国を攻め落とすために

やってきたスパイだったのです。千里姫の未来を見通す力がこの国の大きな武器になっていると

しって、美しくない姫は一計を案じ、とうとう姫を城から追い出してしまいます。

姫を愛していない人々は当然誰も姫にはついていきません……ただ一人馬屋番の平太を除いては。

平太は馬鹿者でした、数は百まで数えられないし、字も読めません。

けれど、平太は生まれてから一回も嘘をついたことのない正直者、その平太が言うのです。

『この世で一番綺麗なのは千里姫だ! 俺ぁ姫が好きだ!』

唯一自分を愛してくれる平太の気持ちを千里はわかってやることが出来ません。

それはそうでしょう、今まで人に愛されたことなどなかったのですから。

平太が自分を好きなのをいいことに我侭をくりかえします。

そんな我侭を平太はわらって受け入れるのです。どんな無理難題も平太は平気です。

だって平太の願いはひとつだけ。

 

『俺ぁ、姫が笑っていてくれたらそれでいいんだ』

 

さぁ、これから二人はどうなるのでしょう? 無事に城にもどれるのでしょうか?

……それとも?